【キーボードメンテ】 響け! キータッチ【茶番劇】
ー序章ー
これはとあるキーボードの執念の物語である……。
今、私の机にあるキーボードはこちら。
このキーボード(仮に名前を『シロミ』とする)は巷で人気のメカニカルでは無いものの、その古風な出で立ちにレトロ好きな私は心惹かれ、安価でもあったことから購入。今では私の机の半分をこのキーボードに託している。最近では私のトラックボールともすっかり意気投合し、私の机の上の住人となっている。
私はこのキーボードを相棒として、日々ブログを書いていいるのだ。
しかし、そんな姿を快く思わないものも存在する。
部屋の隅から突き刺すような視線が……。
このキーボード、(仮に名前は『クロミ』とする)現在のキーボード・シロミと出会う前の数年間、私の相棒だったキーボードだ。『ある事情』によって現役を引退することになったクロミは部屋の隅から現在の状況をずっと遠巻きにしか無かった。
第一打「譲れない、譲らない」
そしてある日の事_____ついにクロミは行動に出る。
あなた!そこの場所は私の場所よ!直ぐにどきなさい!!
あ、初めまして。この度、専属になったシロミです。先輩、これまで長い間お疲れ様でした。
そんなの決まって無いわ!私はまだやれるのよ!いいからどきなさい!
え?でも、先輩。先輩の足はもう……
そう…クロミの背面のスタンドは持ち主の不注意から一本完全に折れてしまい、机上に置いて安定したバランスを保てなくなっていたのだ。
な…何よっ、こんな怪我の一つくらい……私はまだまだ……あっ!!!
机の上でバランスを崩すクロミ。
平置きでは持ち主の手首を疲れさせてしまう。それでも一時期は下に雑誌をかませたりして急場を凌いでいたのだが、ちょっと文字を書き始めるとすぐに疲れてしまう、更にいつの間にか持ち主はかませる為に用意した雑誌を読みふけっている。
これではいつまでたっても作業は終わらないのだ。
クロミ先輩だって、もう自分が通用しないことだってわかってるはずです……ここは……私が頑張りますから…。
分かってない!!あんた分かってないのよ!!!!!私は確かにもうスタンドで立ち上がれない、平置きでは手首に負担がかかる…でも、それでも……。それに、あんたにも欠点があるのよ!!
欠点!!!!?
あんたはキートップがやたら高くて疲れてしまうのよ!!!
!!!!?
あんたの見てくれは確かに持ち主好みだわ…色白でごっつくて…確かにオーナーからしたら「打ってる!!」って感じになるでしょうね……でもねあんたはメカニカルのキーボードみたいにスッと押し込めるわけじゃない、重いのよ、根性なしのあの人では、直ぐに疲れちゃうのよ!所詮は見た目だけなの!ううん…まだあるわ…これが1番致命的なのよ!!
………致命的?
あんたは有線なのよ!!!!!!!
ゆ……有線…、で、でも有線のほうが実際に反応が…
そうよ、確かに有線の方が反応が優れてると一部の玄人さんには言われているわね…でもね、いい??よく聞きなさい…。あの人に限っては、知ったかぶってるだけで、実は体感的に全然違いが分かっていないのよ!!!
ち…違いが……わ…分かってない…
そう、分かってないのよ!しかも有線という事で、作業する場所が固定される。でもね……本来のあの人はズボラなのよ!!
スボラ……
そう、ズボラ!本当はキーボードを持って、寝転んで使用したり。時には信じられない格好でキーを叩いたり、更には『globeかな?TKなのかな?』と言うようなアクションを加えてキーを叩いたり……本来のあの人はフリースタイル過ぎるの!そんなあの人の行動をあなたが有線で縛っているの!!
私が…縛ってる。
だから、だからお願い!もう一度、私にチャンスをちょうだい!私なら無線でフリースタイルなタイピングが可能だし、絶対に足はなんとかするから!
……わかりました。でも、バランスがちょっとでも崩れるようなら、私もこの場所を退くことは出来ません。私が納得できる形を先輩が示してくれるなら、この場所を先輩にお譲りします。
あ…ありがとう!
べ…別に先輩の為じゃないです。オーナーにより良い環境を作りたいと思っているだけです。
復活のチャンスを得たクロミ………しかしクロミ果たして復活することが出来るのか?
スタンドの壊れたクロミに勝算はあるのか?
そして次のタイピングが始まるのです……。
第二打『復活のために脱ぐわ…』
クロミは復活を決意したが、長い放置期間の為にホコリだらけになっていた。
仮に復活を果たしとしてもこのままのホコリが溜まった体では動作不良を起こしかけない。
そしてクロミは決心する。
私、脱ぎます。そしてホコリを全部払って綺麗な体に生まれ変わります。
そんな決心をするクロミに前に現れた影ひとつ……。
あ…あなたは先日100円SHOPで買ったドライバー!!
ドライバーはもしもクロミが脱ぐと言うならば手伝っても良いと申し出てきた。
私は本気よ、お願いするわ…。
そしてドライバーは一個一個丁寧にクロミのボタンを外していった。
丁寧にやらないと割れてしまったり、折れてしまったりするので、慎重に慎重に……。
は…恥ずかしい…でも、復活するんんだから、こんなの何でも無いわ。
そしてとうとう全部のボタンが外されてしまった。
とうとう丸裸にされてしまったクロミはブロアーの風でホコリを吹き飛ばされ……
たまったホコリを掃除機で吸われて、ドンドン生まれ変わっていった。
そして最後は綿棒で丹念に汚れを隅々まで拭き取られるクロミ。
クロミは確実に変わっていった。
(ここの件は何処までもエロく書けるのだが、自主規制)
先輩本気なんだ……。
散々弄られ倒されているクロミの姿を目の当たりにしてシロミはポツリと呟いた。
そして次のタイピングが始まるのです。
最終回『復活……クロミの想い・シロミの想い』
さあ、やってちょうだい!!!
そう叫ぶ、クロミの前に現れたのは______。
以前、100SHOPの回でもっとも重宝されていた『シリコンスタンド』(色違い)だった。
今回は2本のバンドがこの件で採用されている。
そう、クロミはこのシリコンスダンドを自らの背面に装着することでの復活を計ったのだった。
元はスダンドがあった部分に瞬間接着剤を用いてシリコンスタンドを装着するクロミ。
奇跡的に以前のスタンドの幅とこのシリコンスタンドの幅は同じで、綺麗にはめ込むことが出来た。これによって安定度は更に強化されることになる。
もう一方のスタンドも取り外され、同じようにシリコンスタンドを装着される。
スタンドの形はクネクネと自在に曲げることが可能なので、結果的に高さの調整は無段階で設定することが出来るのだ。
この様に内側に折り込むことによって、最強の足を手に入れることに成功した。
この状態で表にして、先ほど洗浄を終えたボタンを取り付ける事になる。
しかし、ここでトラブルが!!
ボタンの裏の隙間に入り込んだ水滴がなかなか拭き取れないのだ。
このまま装着することになれば、故障の原因にもなりかねない。
ここからは地味な作業になるが、ティッシュでこよりを作り、それを差し込みながら一個一個水滴を吸い出し、省いて行く作業となった。ブロアー使って飛ばせる水滴は飛ばしながらの地味な作業が始まる。
こよりで一個一個の隙間から水滴を取り除く………水滴を吸ってはその部分をちぎって再びこよりを作る。そんな地味な作業が延々と続く。
そしていよいよ洗浄されたボタンが本体に装着される。
事前にスマホで撮影された配列を参考に組み上げようとした時……。
突然シロミがクロミを呼び止めた。
クロミ先輩!!
シロミ………
こっちに来て下さい、さあここに並んで……
な…なにを…
ほら、こうすればスマホで見るよりも配置が分かりやすいと思いますよ。私だって伊達に日本語配列やってるわけじゃ………無いですから。
シロミ……ありがとう。でも、なんで……私はあなたを追い出そうと…
勘違いしないで下さい、先輩が先にスタンドを接着したのはボタンを組み込み込んで掛かる圧力にスタンドがガタつくかどうかテストしようとしてるんですよね?もし、このテストで先輩の体のバランスが悪かったりしたら、テストも組み込みも全部中止します。私にはそれを間近で確認する権利はあると思ったんです。
シロミ……分かった、見ててちょうだい。それからもう一度言うわ、ありがとう。
だからぁ!!
シロミは照れくさそうにソッポを向く。
そして組み込みがスタート。順調に一個一個のボタンが組み込まれ行く。クロミはその圧力に耐え続けてバランス崩すこともガタつくこともなく組み込みは完了した。
終わりましたね…先輩。じゃあ、この場所は譲りますね。
シロミ……。
先輩、全国(はてブホットエントリ)行ってくださいね、応援します。あと、BackSpaceボタンに気をつけてください。
シロミ、あなたそれをなんで……。
私だって、キーボードですよ。私だってオーナーのミスタイプの多さは知ってます。先輩もかなりBackSpaceを酷使してきて、それでチョットだけ反応が鈍ってるのは直ぐにわかりました。だから、もし全く反応しなくなったらまた、帰ってきます。その時は潔く場所、譲って下さいね。
わかった…必ず…
先輩、私は先輩の姿を見ていて、少し憧れちゃったんですよ。私も先輩みたいに最後まで諦めずにしっかり役割を果たしていきたいなぁ……って、多分、ここにいるパソコンさんもモニターさんも最後の瞬間が来るまで現役でいたいって思ってると思うんです。今はまだまだですけど、私もいつか先輩や皆さん達の様になれたりしたらいいなぁ…って、長話になっちゃいましたね、未練だと思われるも嫌ですからもう行きますね。では、先輩……お元気で。
そしてシロミは旅に出た。風の噂で家庭用テレビの前で見かけたと聞いた。クロミは復活して今、このエントリを書いている。久しぶりに動いたせいか若干まだぎこちない動作をすることもあるが、それにも徐々に慣れていくだろう。
クロミはキーボードとして動けなくなるその日まで、ここでひたすら文字を入力していくだろう。最後のその時まで、それが自分を役割だと信じながら………。
ーおわりー
あとがき
今回はただのキーボードのメンテナンスを無駄にドラマチックにしてみました。やっていることと言えば、ただのキーボードの掃除とカスタマイズです。以前やった100円SHOP特集を書いている時に思いつき、その後なんやらかんらやの構成を付け加えて。こんな茶番劇に仕上がってしまいました。
何故こんな茶番劇になったかというと、このキーボードのカスタマイズを思いついた時にちょっとだけこのキーボードの動作チェックを行った時、一文字だけ「あ」と表示してそのまま動かなくなったのです。「ああ、電池が切れてるんだ」と思い。電池ボックスの背面の蓋をあけたら……。
「電池が入っていなかったです」
多分、帯電してたものが最後の一文字を打ったと思うのですが、その時はこのキーボードの執念のようなものを感じてしまい、こんな茶番劇を書いてみました。
それにしても100円SHOP、侮れませんね。
ちなみにこの話には後日談があります。
私がキーボードのカスタムを終了して一息ついていると、部屋に息子が現れて一言。
「とーさん、さっきからキーボード治してるんなら、この俺の使わなくなったヤツの部品要る?たしか俺のヤツは同じ型の有線タイプだからさ……」
今までの苦労は一体……。